桜サク頃 〜 ある愛の詩

世間が一斉に見上げる花が咲く頃

 

私は別件を心待ちにしていた。

 

浮き足立つことが好きじゃないないのだけれど、それでもそれなりに、冬から春に変わろうとする強風に閉口しつつも蕾が色づいてくる姿を、私はやはり見上げていた。

 

 

ひとりで無心でいられるとっておきの風景に座り、ベンチの背にもたれると、目に入ってくるそれは、ずらりと並ぶ桜並木。

花開く時期に来たことはないのだけれど、この春は、少しずつ膨らんでくる蕾が、今年はこんなにも愛しいのだ。

 

蕾は空を向き、咲かせる時には『ありがとう』と下を向く。

 

 

開花のその日は、ゆっくりとゆっくりとやって来た。

その人は、ゆっくり弾き始めた。

 

緩く強く歌い始めた。

私はそれを見逃さないように見た。

最後の曲は、Too for awayだった。

なんて切ない曲なんだろう。

悲しい悲しいバラード。

淡々と1人のオトナの男の人が歌う。

こんな思いをした事があるのだろうか。

 

そして静かに

終わった。

長くあっという間の時間。

 

 

私が涙したのは、翌日。

この時間差は私にもわからない。

 

最中のその時間は、自分の身体の中に染み入ってくるのを受け止めるのが精一杯だったのだろうか。

彼の歌は、変わり行こうとするあの時に、立ち止まって聴くことを許してくれたような。

息切れしそうな私に、ゆっくり歩けばいいのだと諭してくれたような。

 

その人の歌は、やっぱりこの先のエッセンス。

 

 

ずっと聴いていられますように。

 

 

 

ではなく

 

 

いつか近くで聴けなくなった時にだって

 

 

 

 

 

 

 

表現の仕方がわからないけれど。

 

 

 

 

 

 Cherish the moment.

 

何度だって思い出して笑えますように。

 

 

 

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