第1章

彼女を初めて知ったのは17歳の高校生だった。

『輝く』という言葉に器があるのなら、収まりきれないほど、炭酸水が溢れてパチパチと弾けるような青春を送っていた頃。

 

年の離れた姉がいる友達に、カセットテープを借りた。

聖子ちゃんカットが流行っていた頃の私が、赤いハイヒールを履いて、ぐーんと背伸びしたって届かないオトナの女性の歌。

 

何度恋をして泣いて笑っていても、寄り添うのは、明菜ちゃんでもなくユーミンでもなく、水越恵子だった。

 

カセットテープがCDに変わる頃、彼女の歌から離れていった。

彼女が名前を水越けいこに変えて、名古屋でずっと歌を歌い続けていた事は知っていた。

 

長い長い時間が過ぎたある日、彼女が歌う店の階段を下りた。

 

小さな舞台の上で静かに歌い始める彼女を見つめた。

泣きたくなんかないのに、ずっと涙は止まらなかった。

振り返らずに力を入れ過ぎて生きてきた私を

彼女の声はまた、優しく解きほぐしていった。

 

一度だけ聴いて、過去は過去として、もう終わりにするつもりだった。

彼女もしばらく、この地には来なかった。

 

日常に戻り、相変わらずの時間を過ごす私に

一通のメールが届いた。

 

それは2日にまたいで、けいこさんが歌うとのこと。

2日目は、ワンマンライブ。

そして初日は、ゲストとして歌うと聞いた。

 

その日の仕事が終わってからでは間に合うことはなく

私は1日目はパスすることにして、2日目の約束をメールで返した。

そんな私が、ひょんなことで、初日に行くことになったから…

 

だから

そこで『エリック クラプトン 』なる人を知った。

そして、その歌を歌う人を知った。

 

ずっと下を向いてその場にいた私は、顔をあげた。

 

 

 f:id:juliawish:20170608012255j:image